法人の元税務調査官、個人の申告を見て驚く

はじめに

当事務所では2021年5月中旬から8月頭にかけて、一時支援金・月次支援金の事前確認を行いました(現在は受付を停止しています)。

事前確認では依頼主に対して、税理士ら登録確認機関が過去2年分の確定申告書をチェックする必要があったのですが、その際に多数の申告誤りを見つけてしまいました。

プロフィールに記載のとおり、私はかつて法人専門の税務調査官(国税調査官)でした。
個人事業主はご自身で申告される方が比較的多いですが、法人は当時も今も、全体の約9割に顧問税理士が付いています(令和元年度国税庁実績評価書より)。
プロが作った法人の申告書に、ひと目見ただけで分かるような誤りはそうそうありません。

自ら税理士事務所を開業してからも、お客様の多くは法人設立や税理士変更をきっかけにご契約いただいた方でしたので、「事業者が税理士に頼まずに自分で作った申告書」(セルフ申告書)は今まであまり見たことがありませんでした。

しかし今回の事前確認を通じて大量のセルフ申告書をチェックする機会が得られました。
普段はわざわざ税理士に仕事を依頼するというお考えがないスモールビジネスの事業者から事前確認の依頼が殺到したからです。

個人事業主にとって確定申告書というのは、日ごろ他人と見せ合うものではありません。
セルフ申告書の内容にどれほど間違いがあっても、その誤りを認識する機会はほとんどありません。

そして税務署も、セルフ申告書に誤りがあってもわざわざ連絡などしません。
少額な誤りのひとつひとつに人的リソースを使っていると税務署の仕事が回らないからです。

本稿では、事前確認で見つけた個人事業主のよくあるセルフ申告誤りを、簡単なものをほんの一部ご紹介します。

ケース1:給付金が二重計上

個人的にインパクトがあったので最初にご紹介します。
持続化給付金や家賃支援給付金など、昨年から様々なコロナ関係の給付金が出ています。

これらは事業の支援措置として支給された給付金なので「事業所得」に計上しなければなりません。
具体的には事業所得のうち「雑収入」(白色申告なら「その他の収入」)に計上します。

ところが「雑収入」を「雑所得」と混同されている方が多数いらっしゃいました。
雑所得となると、もはや事業所得ではない別の所得類型です。
中には雑収入と雑所得の両方に給付金を計上してしまい、税金が過大になっている方までいらっしゃいました。

しかも両方に計上したケースはおひとりだけではありません。お二人もいました。
偶然か必然か、お二人とも同じ会計ソフトをご利用の方でした。
会計ソフトの入力項目について、特に意味を考えずに機械的に入力をしているとこういった誤りが起こり得ます。

ケース2:現預金の残高がマイナス

現金・預金の残高がマイナスなど、ありえない数字になっているセルフ申告書が何件かありました。
※ 貸借対照表(BS)の話なので、白色申告や簡易な青色申告(10万円控除)の方には関係ありません。

売上・経費などPL項目は皆さん比較的ていねいに振り分けされているのですが、一方で、資産・負債などのBS項目は会計ソフトの自動仕訳に任せきりの方が多いようでした。

BS項目の誤りは、PL項目と異なり税額に影響しないことが多いので、税務署はBS項目がデタラメでも実はほとんど無視しています。
※ 個人事業主に限った話です。法人でBSがデタラメだとけっこう目立ちます。

しかし確定申告書は、今回の支援金申請の添付書類となっているほか、金融機関から融資を受ける場合や行政機関に補助金を申請する場合など、様々な場面で提出するものです。

自分の信用力を証明するための重要な書類なのに、あまりに個性的なBSでは公的機関の審査にも支障が生じるのでは‥‥と思います。

ケース3:売上が現金主義

売上は入金日ではなくサービスの提供日あるいは商品の引渡し日に計上します。
これを実現主義といいます。

ところが一部のセルフ申告では、入金日に売上計上しているケースが観察されました。

売上から代金回収までに年をまたがない場合は現金主義でも支障ありませんが、次のような「年をまたぐ場合」はその年の適正な税額が変わってきます。

(例)
12月29日:お客様にサービス提供。代金はクレジットカードで決済
翌年1月4日:クレジットカード会社から入金

上記のように売上と代金回収が年をまたいでいる場合には、12月の売上にすべきであって翌年の売上にすべきではありません。

その年の税金になるか、翌年の税金になるかの違いでしかないのですが、税金の繰延べを防ぐために税務調査ではよく指摘がある論点です。
税務署・税理士業界では「期ズレ」といわれています。

なお、事前に税務署に届出をすれば現金主義が認められる特例も用意されています。
ただし、青色申告特別控除が10万円控除しか受けられない(65万円控除が受けられない)という大きなデメリットがあるためオススメしません。

まとめと宣伝

これらは脱税を企図した誤りではなく、単純な税務・会計の知識不足による誤りです。

中には税金を過大に納めているものもあり(ケース1)、今回把握した過大申告はそのまま当事務所で減額修正(更正の請求)の申請代行を受注しました。

MFクラウドやfreee、弥生会計など最近の会計ソフトは、容易にセルフ申告できるようになっているものの、最低限の会計リテラシー・税法の知識はやはり必須であると感じました。

確定申告は、ご自身が廃業するまで何十年間も毎年必ず行うものです。
継続的な顧問契約とは言わないまでも、せめて一度や二度くらいはスポットで依頼して「変な処理をしていないか」を専門家の目を通しておいた方がよいのではないでしょうか。

なお、当事務所では個人事業主の確定申告書作成を受け付けています。

すでに売上や経費などの入力が済んでいる場合は、77,000円(税込)でお受けしています。
※ 消費税の申告書作成が必要な場合は別途請求させていただきます。
※ 記帳から丸投げの場合は110,000円(税込)からになります。

「スポットでも税理士報酬はやはり高い・・」という方は、青色申告会や商工会議所に入会されるなどして、せめて数年は第三者に申告書を見てもらう機会をつくっておくことをおすすめします。